今回お話をうかがったのは、株式会社ヴィス様でシニアコンサルタントとして活躍されている平部 豊隆さんです。同社は累積実績数6,500件以上のオフィスデザインをワンストップ手がけてきた気鋭のワークデザインカンパニーです。今回は東京・汐留にある東京オフィスで、フリーアドレスを成功させるオフィスレイアウトのノウハウをお聞きしました。前半・後半に分けてお届けしますが、いずれも知っておきたい運用のヒントが満載です。前編はこれからのオフィスに求められるものは何か、どのように考え、どんな機能が必要とされるかを中心に語っていただきました。
- 社名
- 株式会社ヴィス
- お話を伺った方
- 平部豊隆さん
コンサルティング事業部/シニアコンサルタント - URL
- https://designers-office.jp/
株式会社ヴィスは、フィロソフィー(企業理念)である「はたらく人々を幸せに。」のもと、“はたらく”をデザインするワークデザインカンパニーです。コンサルティング、ワークスタイリング、ブランディングを通して継続的に企業価値向上の実現をサポートしています。
実績:デザイナーズオフィス実績 累計6,500件以上(2021年3月末現在)
フリーアドレスがイノベーティブな社風を醸成
弊社では、これまで手がけたデザイナーズオフィスの実績件数が6,500以上に上ります。そうした多くのお客様とお付き合いするなかで感じたのは、フリーアドレスへの関心や実際に導入した事例は確実に増えているということです。
分析すると、この増加には2つの側面があると考えられます。
まず1つはテレワークとの関係です。テレワークが普及するにつれ、出社しない人の割合が増えたことで、オフィスに空きスペースが目立つようになりました。単純にそこの効率化を求めて、スペースを有効活用していくという流れのなかで、フリーアドレスに移行していく必要性があったということです。テレワークが要因となったという側面は大きかったといえるでしょう。
もう1つの側面は、コロナ禍になる以前から、潮流として存在していたものです。働き方改革の脈絡もあるのですが、それ以前から生産性の向上を目指す企業やイノベーションを起こしたいという企業が増えていました。
イノベーションを起こすにあたって、どんなオフィスだったら、それをなし得るかと考えた時、自分の会社は凝り固まった部門同士のコミュニケーションになっているのではないか、という問題意識を持った企業がけっこう多かったのです。レガシーの企業でも然りでした。
そういう方たちが、部門を超えたコミュニケーションを誘発することで、イノベーティブな製品なり、サービスがつくれるのではないかと考えたわけです。それがフリーアドレスを導入するきっかけとなったのです。
オフィスの意味を問うきっかけとなったテレワークの拡大
コロナ前とコロナ禍でのリモートワーク推進後では、オフィスへの考え方は明らかに変わりました。これも働き方改革に行くまでの流れと、それがコロナ禍で加速したという両側面になるのですが、特に顕著になったのは、リモートワークやテレワークでこなせる業務が明確になったことで、経営サイドの方々がオフィスの役割を真剣に考え始めたという点です。
1人でできる業務などはテレワークですればいいわけです。そうすると、それ以外の業務をオフィスでやってもらわなければいけません。生産性を高めるためのオフィスの在り方を考えなくてはならなくなりました。在宅勤務という選択肢ができたことで、出社する目的を社員に対してきちんと説明しなくてはいけなくなったわけです。そもそもオフィスの目的や役割は何だったのかと、これまで深く考えずにきたことに対峙せざるを得なくなったのです。
コロナ禍がオフィスの意味を考える機会を後押ししたという感じでしょうか。特にこの1年ぐらいは、いわゆる大企業の方たちがオフィスの意味を問いただし、今の時代、アフターコロナの時代に対応できるものにしなければいけないということで、弊社へのリノベーションの相談、移転の相談が増えました。
オフィスへの投資も企業戦略として不可欠な時代
リモートへの対応は、いわゆる若いスタートアップ企業のほうが、基本的に動きが早いと思われます。コロナ禍に入ってからの流れでいくと、最初に依頼が増えたのはやはりスタートアップ企業のほうで、それから大企業の方たちの依頼が増えていきました。
オフィスを縮小しないといけないとか、自宅で働けるからオフィスを返上しようとか、ダウンサイジングやコストカットだけを考えての依頼は、ほとんどありませんでした。私たちが提案しているようなオフィスデザインを取り入れようという方たちは、まだまだ成長路線を歩もうという企業ばかりでした。
それでも業種や規模は限定的だろうと思っている方も多いかもしれませんが、フリーアドレスを含め、オフィスを考え直そうという企業の業種はさまざまです。
例えば、皆さんにこのコロナ禍で需要が減っていそうだなと思う業界があるとします。しかし、必ずその業界の中にも体力がある会社さん、つまりリーディングカンパニーのような会社さんはいて、その方たちはコロナ禍のような変化を受けても、先の成長を見据えて、この機にオフィスに投資をしなければいけないと踏み、リノベーションなり移転をされるというケースが多いのです。
もちろん一般に言われているように、IT関連の企業様やアプリのサービスを作っている業界、巣ごもりで需要が増えている業界では収益をあげていますから、そういった方たちは積極的に今のタイミングでオフィスに投資することは可能です。ただオフィスへの投資は生産性を高めるだけでなく、いい人材を得るための施策とも考えています。
どの業界でも、今は異業種から人材を登用していこうという流れがあると感じています。就職あるいは転職活動において、メジャーなスタートアップ系企業と老舗の企業を比べるといったケースも実際に起こっています。そうすると古いままのオフィスの会社や、オフィスに投資していない会社は不利になってしまうため、リノベーションに踏み切るという会社さんもけっこうありました。今はどこも売り手市場なので、採用側も選ばれるということを意識しないと、人材の確保は難しくなるのではないでしょうか。
「カルチャープレイス」としてのオフィスに必要な機能とは
このようにコロナ禍で見えてきた課題に対し、弊社では「アフターコロナの『はたらく』を考えるプロジェクト」を立ち上げて考察し、その提案をまとめました。
(https://designers-office.jp/download/covid19_2/)
根幹にあるのが「職場(ワークプレイス)はカルチャープレイスである」という考え方です。私たちが提案するカルチャープレイスとは、次のような場をさします。
- ・会社が目指すものを社員が共有し、共感を育む場(企業ビジョンへの共感)
- ・一体感を醸成し、コミュニティへの愛着やつながりを感じられる場(コミュニティへの帰属意識)
- ・自分らしい働き方で組織に貢献し、相互に持続的な成長を促す場(個と組織の成長)
- ・多様な価値観をもつ人が集まり、新たな価値を創造する場(イノベーションの創出)
これらを具現化するためのオフィスデザインであり、働き方のデザイン(ワークデザイン)だと考えれば、するべきこと、備えるべきものなどが、自ずと見えてくるのではないでしょうか。
フリーアドレスやABW(Activity Based Working)が定着しつつあるなかで、多目的に使えるスペースやオンライン会議への対応なども必須となってきました。「アフターコロナの『はたらく』を考えるプロジェクト」のレポートをご覧いただけるとよく分かると思いますが、ここではフリーアドレスの運用を成功に導くオフィス設計のポイントがテーマなので、レポートの中から「これからのオフィスを構成する6つの機能」を紹介いたします。
- 1.REFRESH AREA
- 自宅よりも快適なオフィスとするための福利厚生を提供したり、テレワークで不足しがちな業務以外のつながりを生むコミュニケーションを醸成する場ともなります。
- 2.COMMUNICATION AREA
- Officeのメイン動線上にさっとコミュニケーションが取れる環境が存在することで、物理的距離を短くし、社内横断的なブレストの機会が格段に増加します。
- 3.PROJECT ROOM
- プロジェクトごとに、室内で集中してディスカッションを行える半個室スペース。可動間仕切りやホワイトボードを使うと規模・内容に応じた変更も可能になります。
- 4.PRESENTATION SPACE
- プレゼンテーションや情報の共有をインタラクティブに行うエリアを設けることで、情報共有の効率化やディスカッションの活性化につながります。
- 5.ONLINE BOOTH
- オンライン会議のための1人用/4人用のブースをオフィス内に点在させることで、周囲の雑音や音漏れを気にすることなく、円滑に会議を行うことができます。
- 6.BACK YARD
- フリーアドレス運用に必要な個人ロッカーや、データ化できない書類等を保管するエリア。ペーパーレス化により大きく削減し、デスク同様ホテリング(事前予約)を取り入れるケースも。
例えば、社内寄りのコミュニケーションが多い会社と、社外とのコミュニケーションが多い会社とではパブリックとインナー側のスペースのバランスが変わりますから、これら6つの機能は必須だとしても、それらの規模は会社の特徴によって異なります。
弊社が最も重視していることは「アジャイルオフィス」であること。つまり、業務内容や変化に柔軟に対応しながら最適解に見合った可変できるオフィスであることです。
弊社は東京オフィスのリニューアルと同時に、アジャイルオフィスを実現しました。後編では事例として「カルチャープレイス」を目指した弊社のオフィスを紹介しながら、レイアウトのポイントと、フリーアドレスの運用を成功に導くヒントを解説していきます。
まとめ
前編:これからのオフィスに求められるもの
フリーアドレスがイノベーティブな社風を醸成
コロナ禍にテレワーク普及し、空いたオフィススペースを効率利用するために、またコロナ禍以前からある生産性向上・イノベーションへの意識の変化から、フリーアドレスを導入する企業が増加している。
オフィスの意味を問うきっかけとなったテレワークの拡大
コロナ禍のテレワーク推進の流れから、経営陣がオフィスの目的や役割を真剣に考え始めた。
オフィスへの投資も企業戦略として不可欠な時代
オフィスのテレワーク化・フリーアドレス化は、業種・規模を問わず「成長しよう」とする企業が実施している印象。これからの人材登用を有利にするためにリノベーションを実施する企業も。
「カルチャープレイス」としてのオフィスに必要な機能とは
株式会社ヴィスでは、コロナ禍で発見した問題点を、「職場(ワークプレイス)はカルチャープレイスである」という観点で考察するプロジェクトを行っている。カルチャープレイスとは「企業ビジョンへの共感」「コミュニティへの帰属意識」「個と組織の成長」「イノベーションの創出」を育成する場を指す。
これからのオフィスを構成する機能は、REFRESH AREA・COMMUNICATION AREA・PROJECT ROOM・PRESENTATION SPACE・ONLINE BOOTH・BACK YARDの6つ。
最も重視しているのは変化に柔軟に対応できる「アジャイルオフィス」である。
-YourDesk スタッフ一同より-
今回取材でヴィス様に伺った際、受付で下記ウェルカムカードが置いてありました。とても素敵な取り組みで感動してしまいました!
後編では、ヴィス様のオフィスを拝見しながら、実際にフリーアドレスをどのように運用しているかをお話いただきます。後編もお楽しみに!
※感染症予防の一環で、インタビュー時はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保しております。