働き方の多様化や新型コロナウイルスの流行により、急速に広まったテレワーク。さまざまなメリットが期待できる一方で、オフィスに出社する必要がないため「従業員の帰属意識が低下するのでは」と心配している企業も多いのではないでしょうか。そこで今回は、テレワークを導入するメリットを再確認したうえで、テレワークが帰属意識に与える影響や、帰属意識の低下を防ぐ具体的な方法などを解説していきます。
テレワーク導入のメリットをおさらい
テレワークの導入は、企業や従業員にさまざまなメリットが期待できます。帰属意識について心配するあまり、このメリットを逃してしまうのは非常にもったいないかもしれません。どのようなメリットがあるのか、まずはおさらいしておきましょう。
コストの削減
オフィスに毎日たくさんの従業員が出社していると、さまざまなコストが発生します。広いオフィスを借りれば賃料がかさみますし、人数が多ければそれだけ多くの光熱費も必要です。公共交通機関で通勤している従業員には、まとまった交通費を支給している企業も多いでしょう。テレワークを導入するとオフィスへ出社する従業員の数を減らせるため、これらのコストを大幅に削減することも可能です。同じ売上でも、コストを削減できればその分利益が増えるため、コストの削減は重要な経営課題のひとつと言えます。これまで思うようにコスト削減を実現できなかった場合は、思い切ってテレワークを導入することもひとつの解決策になるでしょう。
もちろん、初めてテレワークを導入する際は新たな設備投資や環境整備が必要になります。場合によってはかなりの導入コストがかかることもありますが、長い目で見れば導入コストよりも削減できるコストのほうが大きくなる可能性が高いです。以下のようにコスト以外のメリットも期待できるため、テレワーク導入は決して無駄ではありません。
対人関係のストレス軽減
厚生労働省が行った「令和2年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事に対してストレスを感じている従業員は全体の54.2%に上り、そのうち27%が対人関係を原因のひとつに挙げています。
職場での人間関係が悪いと大きなストレスにつながりやすいということであり、放置していると「会社に行きたくない」という思いから従業員の離職やモチベーションの低下を招く場合もあります。ストレスは目に見えないからこそ発見や対処が難しく、気付いたときには手遅れというケースも珍しくありません。
この点、テレワークを導入すると出社回数が減ることで従業員どうしが顔を合わせる機会も自然と減り、上司や同僚のストレスから解放されやすくなります。ストレスを溜め込む心配が低いというだけでなく、滅多に会わないためそもそも相手に嫌な感情を抱きにくくなるでしょう。
人材の確保
オフィスに出社して働く場合、必然的にオフィスの通勤範囲内の人材しか採用することができません。いかに優秀な人材を知っていたとしても、居住地が遠方だと働いてもらうのは難しいでしょう。しかしテレワークなら、インターネット環境さえ整っていれば日本どころか世界中どこからでも働けます。地域の制限なく、さまざまな属性の人材を獲得できるのです。少子高齢化で労働力不足が深刻化する日本では、いかに人材を確保し、競争力を維持するかが市場を生き残るカギになります。テレワークが可能な企業は働きやすさから求職者に選ばれやすく、採用面で大いに有利になるでしょう。
また、これまで出産・育児や介護などでやむなく離職していた人材も、テレワークなら働き続けられる可能性があります。経験を積んだベテランの離職を防ぐことで、採用・教育コストの削減や生産性低下の防止なども可能です。
通勤時間・労力の削減
都心部では毎日数時間かけてオフィスまで通ったり、満員電車に揺られて辛い思いをしたりしている人も多いでしょう。テレワークが可能になるとオフィスへの通勤が不要になるため、その時間・労力をほかのことに使えます。休息や家事、趣味などの時間として有効活用すれば、ワークライフバランスを実現しやすくなるでしょう。満員電車に乗らないことで、余計なストレスや疲労も感じにくくなります。プライベートが充実していると、従業員は仕事に対して高いモチベーションやパフォーマンスを発揮しやすくなるため、生産性の向上も期待できるでしょう。
テレワークの導入で帰属意識は低下する?
テレワークの導入にはメリットが多い一方、従業員どうしがコミュニケーションをとる機会が少ないというデメリットもあります。上司が部下の進捗状況を把握したり相談に乗ったり、同僚どうしで雑談に花を咲かせたりするなど、ちょっとしたコミュニケーションが難しくなるでしょう。その結果、残念ながら組織としての一体感や帰属意識が低下してしまうこともあり得ます。総務省が2021年5月に公表した資料「コロナ下でのテレワークの課題とはー「日本型テレワーク」を目指してー」では、実際にテレワークで働いている労働者がテレワークの課題について回答しています。
これによると、「チームに一体感が感じられない」「会話が減って寂しさを感じる」「ほかのメンバーに仕事を頼みにくい」と回答したテレワーカーが約28〜31%いました。およそ3人に1人が、組織と自分との間に十分な信頼関係を築けていないと感じている可能性があるのです。もちろん個人差はありますが、テレワークと帰属意識の低下に全く関係性がないとは言い切れません。テレワークを導入する際は、帰属意識の低下を防ぐ対策も忘れないようにしましょう。
テレワークによる帰属意識低下を防ぐ3つのコツ
帰属意識が低下すると、モチベーション低下による生産性の低下や離職率の増加など、企業にとってさまざまな不利益をもたらす可能性があります。これを防ぐためには、企業と従業員が密接にかかわっていることを従業員に実感させ、帰属意識を高める施策の実施が欠かせません。施策の内容は企業の自由ですが、代表的なものを3つ挙げるので参考にしてみてください。
社内コミュニケーションの活性化
テレワークでは従業員どうしが接する機会が乏しいため、社内コミュニケーションの場を意識して増やしましょう。社内SNSやサンクスカードなど、ちょっとした内容でも気軽にコミュニケーションをとれるツールを導入すると効果的です。多くの従業員がツールを通して信頼関係を深めていけば、相手ひいては企業に対して愛着を持てるようになるでしょう。ツールを用意しただけでは活性化につながりにくいので、管理職が率先して利用または利用を推奨するのがおすすめです。このほか、オンライン上でイベントや飲み会を開催したり、社内表彰制度を導入したりするなど、従業員が「企業の一員だ」と実感できる施策を取り入れてみましょう。
可能であれば、定期的に直接顔を合わせるイベントを開催するのもおすすめです。直接言葉を交わすとニュアンスも伝わりやすいですし、画面越しでは難しいような話も気軽にできるので信頼関係の構築に大いに役立つでしょう。ただし、あまり頻繁に開催するとテレワークの意味がなくなったり従業員がストレスを感じたりする可能性もあるので、適度に開催するのがポイントです。
インナーブランディングを徹底する
帰属意識を高めるには、そもそも企業がどのようなビジョンで事業を展開しているのか、理念や目標をしっかり浸透させることも欠かせません。従業員向けのインナーブランディングを徹底し、すべての従業員が同じ方向や目的に向かって行動できるようにしましょう。自社についての理解や共感が深まれば、帰属意識も高まりやすくなります。スローガンや行動指針を記載したクレドカードを作成・配布したり、定期的に社内報を作成して社内情報を共有したりすると良いでしょう。
オンライン研修やOJTを実施する
テレワークは基本的に一人で作業するため、仕事でわからない部分があっても気軽に周囲に尋ねにくい環境にあります。従業員が孤独感を深めやすいため、特に新入社員に対して十分なフォロー体制を整えておきましょう。帰属意識は入社直後が最も高まりやすいと言われており、ここで企業と従業員の間に信頼関係が築けるかどうかが重要になります。オンライン研修の開催やOJTの導入など従業員が安心して働ける環境を整えれば、従業員は「大切にされている」と感じ企業への愛着も高まっていくでしょう。
メリットの多いテレワーク!帰属意識を高める対策も忘れずに
テレワークは業種によっては導入のハードルが高いですが、一度環境を整えてしまえばコスト削減や人材の確保などさまざまなメリットが期待できます。働き方の多様化に対応するためにも、積極的に導入を検討してみましょう。コミュニケーションの減少により帰属意識が低下するケースもあるため、テレワーク導入時は意識的に帰属意識を高める対策を実施することも大切です。
まとめ
テレワーク導入のメリットをおさらい
- ・コストの削減
- ・対人関係のストレス軽減
- ・人材の確保
- ・通勤時間・労力の削減
テレワークの導入で帰属意識は低下する?
テレワークでは、従業員どうしがコミュニケーションを取る機会が減ることから、帰属意識が低下するおそれがあるので、対策が必要
テレワークによる帰属意識低下を防ぐ3つのコツ
- ・社内コミュニケーションの活性化
- ・インナーブランディングを徹底する
- ・オンライン研修やOJTを実施する