今回は、コクヨ株式会社様でワークスタイルコンサルタントとして活躍されている成田麻里子さんにお聞きした「フリードレスを成功させるポイント」の後編です。フリーアドレスの成功と失敗の分かれ道の解説をはじめ、快適に運用するためのアドバイスが盛りだくさんです。前編に続き、ぜひ参考にしてください。
- 社名
- コクヨ株式会社
- お話を伺った方
- 成田麻里子さん
ファニチャー事業本部/スペースソリューション本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
コクヨ入社後、10年間にわたりオフィスデザインやワークスタイル研究、新規事業企画に携わる。現在は企業向けサービス[コクヨの研修]スキルパークにおいて、人材育成、働き方改革に関わる研修企画および講師を担当。 - URL
- https://www.kokuyo.co.jp/
意識改革と運用ルールの浸透が重要
セミナーで一番初めに私は、次のようにお伝えしています。
皆さんも感じられているように、今、世の中の変化は非常に早いです。そのなかで、企業として価値創出をし続けるために、組織や個人の創造性を高め、より生産性を向上させる等の目的で、フリーアドレスを導入します。そういう意味では、導入を決めた時点で目的は明確です。
ただ、企業の取りくみだけでうまくいくわけではありません。フリーアドレスの導入から、快適に運用できるようになるまでに重要なのが、次の5項目です。
- 1.目的の明確化
- 2.ルール、制度づくり
- 3.オフィス空間やツールの構築
- 4.社員の意識、行動改革
- 5.運用ルールの浸透
フリーアドレスを導入する時には、業務に合った様々なオフィススペースの構築、備品やツールの用意に加え、運用ルールや制度をつくる必要があります。これらは必要不可欠なことですが、時間と費用をかければ、整えることは可能と言えます。
一方で、社員の意識やスキルはそれだけでは解決できません。ここがポイントです。いかに社員が目的や運用ルールを理解し、行動できるか。ひとりひとりが実践できて初めて、オフィスを円滑に運用できるようになります。
フリーアドレスの成功と失敗の分かれ道は、社員の意識と行動を変えられるか否かだと、私は考えています。これまでの固定席に慣れていると、自席がなくなることへの反発もそれなりに大きいだろうと推測できます。「自分の席がなくなってしまう」と思う人たちの意識を、どのようにマイナスからゼロに、ゼロからプラスに持っていくか、環境だけ用意して、社員に何もメッセージを伝えなければ、成功への道は開きません。
私たちが主催するワークショップでは、「社員の意識改革」に着目し、社員の皆さんに考えていただく時間を多く取るようにしています。まず、フリーアドレスを導入した時にどんな課題が起こりそうかということを挙げていただきます。つまり課題の洗い出しです。そして、ほかの人が何とかしてくれるだろうというのではなく、自分の考え方や行動をどのように変えれば解決できるかという「自責」の視点で、グループごとに解決策を話し合っていただきます。そうすると、短時間でも何らかの解決策が出せるものです。
ワークショップに参加していただいた皆さんからの感想で多いのが、「他の人も自分と同じように不安に思っていることがわかった」というものです。そして「不安ではあるけれど、何人かで集まって解決策を考えれば、うまくいきそうだ」「仲間と一緒に考えることが大事なのだ」という感想も多くいただきます。こうした体験をしていただくことは非常に大切です。
また、フリーアドレスを導入したから課題が出てくるというわけではなく、これまでの固定席でも課題はあったはずです。ただその解決策を皆さんが経験値でわかっていたから、課題をクリアすることができていました。一方、フリーアドレスは初めて導入するので、解決方法がわからないのは当然と言えば当然です。運用を始めたら、毎日のように課題は出てくるでしょう。単に参考になる事例を調べるだけでなく、自分たちがどういうふうにしたら円滑に運用できるかを考える、考えて自分達にあう新しいルールを作っていくという行動がとても重要です。
マネージャークラスの方々の行動変容が鍵を握る
ワークショップやセミナーなどに参加いただき、「こういうふうに考えればみんなで解決できる」ということを実感できれば、フリーアドレスを継続する道筋が見えてきます。そういったきっかけづくりは不可欠です。
ワークショップでは、たとえ効果的な解決策が出てこなくても、自分たちで考えることにより解決策が導き出せるということを感じていただければいいと思っています。大人数になると意見を吸い上げるのがむずかしくなるので、参加人数は20~30人がベストです。社員数の多い企業様が実施される場合は、ワークしやすい人数に分けて実施することをお薦めしています。
特に、ワークショップやセミナーを受けていただきたいのが、マネージャークラスの方たちです。セミナーを担当させていただくお客様の中には、直接部下をマネジメントする立場にある方は原則全員参加で、それ以外の方は任意で参加するといったケースが多くあります。課長クラスの方がフリーアドレスに否定的なままで、「誰かがやってくれるだろう」という姿勢でいては円滑な運用は難しいです。例えば、フリーアドレスを導入したけれど、課長自身は毎日同じ席で仕事しているというのでは、部下にフリーアドレスのメリットも伝わりません。自ら実践して見せなければ、部下はついてこないのではないでしょうか。
課長クラスのワークショップでよく耳にするのが「部下からは『なんでフリーアドレスなのか?』と問われ、上司からは『メンバーに浸透させろ』と言われる。その間に立ってすごく不安なんです」という声です。フリーアドレスの導入前や導入直後だけでなく、導入から時間は経っているがあまりうまくいっていないという場合にも、ワークショップで皆さんに考えていただく時間をとることは有効です。メンバーとうまく関わりながら運用している、ほかの課長の工夫などを知る絶好の機会となります。また自分なりの運用のヒントなどを共有すれば、横展開することも可能です。
運用のためのルールブックやマニュアルを作って、運用の仕方を統一することも大事ですが、ただ作るだけではなかなか浸透しません。説明会やセミナーを開催し、皆が理解できるように発信していくということを大事にしていただきたいです。
このように実際に運用することを考えると、マネージャークラスの方が自分で実践できるかどうか、うまく社員を導けるかどうか、それが鍵を握っていることが理解できると思います。そして、社員の意識、行動改革を促すためには、マネージャークラスの方々の行動変容がポイントだということです。
今後、ワーカーに求められる視点とは
最後に、今後さらに効率の良い働き方を実現していくために、何が重要かというお話をしたいと思います。現在テレワークという働き方が多くなってきて、オフィスの中ではフリーアドレスやサテライトオフィス、WEB会議などを当たり前のように利用することが増えました。もちろん職種によりますが、今後オフィス内でのフリーアドレスをABWに広げて、在宅とのバランスを取りながら仕事していく人が増えていくだろうと予測しています。
それに伴って、ワーカーが考えるオフィスの役割はますます変わっていくことでしょう。その変化は当社の実施した調査でも如実に表れています。
100%オフィスで仕事をするという働き方だと、これまでオフィスに求める役割のトップ3が資料作成、メール処理などの事務作業、業務報告や連絡で、業務時間に対して費やす時間が長いものをオフィスで行うというのが定番でした。
ところが、リモートワーカーになると、資料作成や事務作業は自宅などでできると考えている傾向がみられます。では、オフィスにはどんな目的で行くのかというと、同僚や顧客との雑談をはじめ、面談・相談や意思決定を必要とするような会議など、新たな価値の創造や向上につながる仕事を目的に行くというのです。誰かと顔を合わせて、たまたました会話が新企画のヒントになったということも往々にしてあります。そういった意味でも、オフィスに求める役割が非言語情報も含めたコミュニケーションにシフトしているのだと実感しました。
オフィスに求める役割が変われば、どのようなオフィス空間を作るか、ワクワクして出勤してもらう仕かけをどう作るかといった視点も、必要になってきます。何をオフィスでやるべきか、何をオフィス以外の場所でやるべきなのか、オフィスにどういう役割を持たせるのかを見極めながら、組織として、個人として業務に取り組むということが、この先、重要になってくるのではないかと思っています。
まとめ
後編:フリーアドレスの成功と失敗の分かれ道の解説、快適に運用するためのアドバイス
フリーアドレス導入から快適な運用までに重要なのは、意識改革と運用ルールの浸透
「目的の明確化」「ルール、制度づくり」「オフィス空間やツールの構築」「社員の意識、行動改革」「運用ルールの浸透」これらに着目し取り組んでいくようにする
マネージャークラスの方々の行動が、フリーアドレス導入成功の鍵
直接部下をマネジメントする立場にある方がフリーアドレスを実践し、うまく社員を導くことが重要
効率の良い働き方を実現するために、ワーカーに求められる視点
オフィスにどういう役割を持たせるのかを見極めながら、組織として、個人として業務に取り組む姿勢が大切
-YourDesk スタッフ一同より-
皆さん、「フリーアドレスを成功させるポイント」はいかがでしたでしょうか。コクヨ株式会社様では「品川ライブオフィス」の見学も受け付けているとのことです。詳しくはこちらでご確認ください。
成田様、ご協力ありがとうございました!
※インタビュー時はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保しております。